予防と健康管理レポート

1.はじめに

 予防と健康管理ブロックで、うつ病,アスベストについてのビデオをそれぞれ見て、それに関する自分が選んだキーワードに沿った論文を選択し読んだ。それを踏まえた上で、将来自分が医師を目標としていることを踏まえ、これらに関する考察を述べる。

 わたしは今回、“mesothelioma”“TNF-α”というキーワードを選択し、アスベスト・悪性中皮腫の歴史的背景、その症状や体内での仕組み、さらに社会的問題点について考察した。

 

 

2.選んだキーワード

mesothelioma , TNF-α

 

 

3.選んだ論文の内容の概略

THE pathogenesis of mesothelioma”

michele Caebone, MD, PhD, and Carlos W.M. bedrossian, MD,PhD(Hon), FIAC

 

 ここ一世紀の間で広まったアスベストは、悪性中皮腫の劇的な増加に関連している。1950?1960まではかなり珍しかったので、病理学者たちはその存在すらも疑問視しているほどの有害なものである。アメリカではおよそ2500人のひとが悪性中皮種を発症し、死亡している。これはすべての癌の約0.7%を占める。アスベストは明らかに悪性中皮腫の病巣に関係しているが、最近まで人間における発癌性のメカニズムはあいまいなままであった。発癌のメカニズムを理解するのに最も重要なことは、暴露量と発症するまでにかかる時間である。特にヒト中皮細胞(HM)は特に影響を受けやすく、毒性は暴露量に依存している。最近の調査結果では、細胞分裂誘発経路(AP-1経路)と、アスベストにさらされた中皮種細胞やマクロファージによるTNF-αの分泌に関係している事がわかってきた。

 中皮細胞においては、NF-kBの活性化を通して、信号としての役割を持つ、つまりサイトカインであるTNF-αは細胞消滅や細胞死を妨げ、中皮細胞がアスベストや細胞分裂によって誘発される遺伝子のダメージを避けることを可能にしている。加えて、肺胞マクロファージによって主に放出される変異促進性の酸素ラジカルは、アスベストの発癌性を引き起こす可能性がある。ごく最近の調査結果は、発癌性鉱物繊維が遺伝性と微生物感染症によって影響を受けているということを表している。鉱物繊維エリオナイトに対する遺伝子感受性は、一部のトルコ人の家族で検証されており、トルコのカッパドキアで悪性中皮腫感染症を引き起こしている。これらの中皮腫家系においては、少量のエリオナイトまたはアスベストの暴露でも、十分に中皮腫を引き起こす可能性がある。エリオナイトとは悪性中皮種を引き起こすという点で、クロシドライトに類似しているが、クロシドライトよりもより強力な鉱物繊維である。そして現在、西洋の世界全体でのエリオナイト暴露の危険性が叫ばれている。

アメリカでの最近の調査では、SV40 (SV40は、ハムスターに悪性中皮腫を発症させることができるDNAウイルス)は、細胞の種類により異なる作用をしめし、ヒト線維芽細胞や上皮細胞は、SV40によって悪性細胞へ形質転換されることは稀だが、中皮細胞は悪性細胞へ転換されやすく、アスベストは相乗的にこれを促すとされる。特に、SV40感染症を伴う悪性中皮種では、アスベスト発癌のもう1つのメカニズムである、全身性免疫抑制と免疫促進性と関連がある。さらに事実として、次のことが挙げられる。@世界中で何百万もの人々は、伝染性SV40含むポリオワクチンを摂取するか、注射している。A様々な国で多様な暴露期間がある。BSV40は注射することで独特な向性を持ち、人間のおよびハムスター中皮細胞を変化させ、そして、悪性中皮種を引き起こす。Cヒト中皮腫細胞では、SV40は遺伝子に後成的な異常を引き起こす。

以上の結果から、被爆者の遺伝的な背景や他の発癌性物質の暴露のためにアスベストやエリオナイトに被爆した人々の間では、さまざまな危険性があると指摘している。

  次にクロシドライトが体内に入ってきたとき、体内ではどのような機構が働いているのか、下図を用いて説明する。




サイトカインTNF-αは、NF-Bに依存する経路を通して、アスベストによって引き起こされた細胞毒性を阻害する。アスベストは腫瘍形成を誘発しうる。組織培養において、クロシドライトは広範囲にわたり細胞死を引き起こすため、ヒト中皮細胞(HM)にとって有害である。クロシドライトは、肋膜と肺でマクロファージの蓄積を引き起こす。これらマクロファージは、アスベストに反応してTNF-αを分泌する。同時に、アスベストは直接、ヒト中皮細胞にTNF-αR1レセプターを運ばせ、さらにTNF-α(パラクリンとオートクライン効果の両方)を分泌させる。TNF-αはNF-B サブユニットにおける各遺伝子の転座を引き起こし、その結果NF-Bが活性化することで、ヒト中皮細胞が生き残りやすくなる。そしてこれらの分子の影響により、アスベストによるDNA損害を受けたヒト中皮細胞は、死ぬというよりはむしろ分裂することになる。また、もし遺伝子の損害が一定レベル以上蓄積されれば、最終的には悪性中皮腫が発症する。

 

 
考察

石綿(アスベスト)による健康被害についてのビデオは衝撃的だった。特に悪性中皮腫だと診断された人の肺のレントゲン写真に写ったアスベストは印象深かった。あんな小さな線維のような鉱物で、癌を引き起こしてしまうなんて。最近は稀となったが、数年前までアスベスト、アスベストとしきりに報道されていた。この川崎医科大学においても昨年校舎塔1階のアスベスト除去工事が行われた。そんな身近なアスベストだが、私はアスベスト曝露による健康被害どころか、アスベストがどんな物質か詳しいことは知らなかった。

まず、ビデオの内容も踏まえアスベスト、石綿について歴史や社会問題について述べる。アスベストは、その繊維が極めて細いため、研磨機、切断機などの施設での使用や飛散しやすい吹付け石綿などの除去等において所要の措置を行わないと石綿が飛散して人が吸入してしまうおそれがある。石綿は、そこにあること自体が直ちに問題なのではなく、飛び散ること、吸い込むことが問題となるのである。空気中の大領のアスベストが人体に有害であることを指摘した論文はすでに1964年に公開されていた。アスベストの製造責任者を世界で最初に追及されたのはアメリカのマンビル社である。1973年にアスベストによる健康被害問題で製造社責任が認定されると、類似の起訴が多発し、1985年までに3万件に達した。マンビル社自体も1981年の段階で被害者への補償金額が3500万ドルを超え、さらに2万件近い起訴の対象となり、最終的な総額が20億ドルを超えた。このため、マンビル社は1982年に倒産。このような動きを受け、世界にアスベストの使用が消滅・禁止される方向にある。日本では、アメリカでアスベストによる健康被害問題で製造社責任が認定された2年後の1975年にようやく吹付けアスベストの使用が禁止された。その後も、スレート材、ブレーキライニングやブレーキパッド、防音材、断熱材、保温材などで使用されていたが、現在では、原則として製造等が禁止されている。2004年までに、石綿を1%以上含む製品の出荷が原則禁止される。また、大気汚染防止法で特定粉塵をして工場・事業場からの排出発生が規制される。また、廃棄物処理法で、飛散性の石綿の廃棄物は、一般の産業廃棄物よりも厳重な管理が必要となる特定管理廃棄物に指定されている。なお、2005年には、関係労働者の健康障害防止対策の充実を図るため、石綿障害予防規則が施行された。

 また、同じ2005年には、大手機械メーカー「クボタ」が、かつて発がん物質のアスベスト(石綿)を扱っていた尼崎市内の旧神崎工場で、従業員だけでなく周辺住民にも健康被害が出ていると公表した。それまでアスベストによる健康被害は、大量に吸い込んだ工場従業員らに起きる労働災害だと考えられてきた。近隣住民にまで広がっていた衝撃は大きく、この時「クボタショック」という言葉が生まれた。クボタの自主公表に引っ張られるかたちで、業界最大手のニチアスなどが次々と、アスベストの使用記録や従業員の患者数を明らかにした。国や自治体も、公共施設での使用実態を調べ、順次、除去を進めている。最近では労災の枠から漏れた人のために石綿救済新法が成立し、患者や遺族の認定も始まった。水俣病などに比べ、そのスピードは異例のスピードで対策が進んだようにみえる。そのけん引力になったのは、粘り強い交渉でクボタを動かした住民患者と支援団体だろう。

  その後、クボタは企業の道義的責任を認めて謝罪し、近隣住民で発症した人にも従業員並みの補償を約束した。しかし、アスベストを扱っていた工場で、クボタのように独自の対応ができるところはごくまれである。ほとんどの中小・零細事業者は既に廃業し、使用記録や従業員名簿さえ残っていないところが多い。それだけに、国による漏れのない救済や十分な補償が欠かせないと思う。だが、救済新法では石綿肺など関連疾病を対象外にしている。療養手当や弔慰金の金額も、労災に比べて少なすぎる。そもそも使用規制が遅れて被害を広げたことに関して、国は自らの責任を認めていない。救済制度を素早く整えたからといって、免罪されるものではない。

 アスベストの健康被害は、今後も増え続けることは間違いない。国を中心にして、潜在的な被害者の救済や新たな飛散防止に、これまで以上に力を注ぐべきだ。アスベストなければ日本の高度成長期も高層ビルも存在しなかっただろうし、誰もがアスベストの恩恵を受けてきたことは事実だ。アスベストが一方的に悪いのではなく、社会の中に加害者と被害者の両面が阿多ということを考えなければならない。

 

5、まとめ

 今回のレポートではアスベストを取り上げたが、人という生き物は本当に自分勝手な生き物だ。自分の住んでいる環境はよくしたい、だからといって今の生活水準は落としたくない。そういった矛盾した考えがぶつかり合っているのが、ちょうどこのアスベスト問題に見えて仕方がなかった。現在この問題は国のレベルで取り組まれているが、まだようやく問題の輪郭が見えてきた段階にすぎない。過去の曝露によって今後数十年に亘って患者が発生し続けると予想され、今後とも大きな社会問題となるに違いない。